東京五輪はスポーツへの嫌悪と絶望

日刊ゲンダイDIGITAL 政治・社会 社会ニュース 記事
著者:斎藤貴男ジャーナリスト
1958年生まれ。早大卒。イギリス・バーミンガム大学で修士号(国際学MA)取得。日本工業新聞、プレジデント、週刊文春の記者などを経てフリーに。「戦争経済大国」(河出書房新社)、「日本が壊れていく」(ちくま新書)、「『明治礼賛』の正体」(岩波ブックレット)など著書多数。

二極化・格差社会の真相

東京五輪は災厄なのだ

公開日:2021/06/30 06:00 更新日:2021/06/30 06:00
東京五輪の開催が強行され、その期間中にコロナの症状が表れたとする。どれほど重篤化しようとも、動員で逼迫しきった医療体制では、入院どころか治療も受けられまい。いや、そもそも診察自体を断られるのではないかと怯えているのは、ひとり私だけではないはずだ。
なぜならこの国では、権力に都合のよいデータをでっち上げる不正が常態化してしまっているからだ。この間の経緯に照らせば、検査を手控えて統計上の「感染者」を増やさず、何もなかったことにすれば問題なし、と踏んでいるのは確実ではないか。
大方の患者とその家族が、自宅待機を強いられよう。伏せってもテレビや新聞を眺めれば、どうせ五輪バンザイ、ニッポン・チャチャチャの大合唱。終われば終わったで、今度はニッポン勝った、22年北京冬季五輪に先んじたドンチャン騒ぎが待っている。国威発揚の前には市井の人間の命など虫けら以下である。多くの人々が開催以降の世の中に順応する準備を、すでに整えているように思う。最近の世論調査はどれも、五輪中止を求める人の減少を明示した。一時は頑張っているようにも見えた尾身茂会長ら専門家有志の提言も中止や延期の方向性には触れもせず、あくまで開催が前提の、日和りまくったものになっていた。感染し、重篤化したら最後、私は薄れゆく意識の中で、政府と奴隷根性丸出しの臣民どもへの怨念をたぎらせながら、野垂れ死にさせられていくのだろう。
憧れて飛び込んだジャーナリズムの世界が、今では五輪商売に魂までを売り飛ばし、政府と巨大資本の使い走りに成り下がってしまった悲しみとともに。夢だの希望だの感動だのを「与えたい」と、スガ政権とチョーチン持ちの面々は叫ぶ。
何様か。何度でも書くが、現在の日本社会における最大の不安要因で、スポーツへの嫌悪感と絶望ばかりをつのらせてくる災厄こそが東京五輪なのである。
首相や閣僚が「責任は私に」などと軽々しく吐きたがるのにもむしずが走る。五輪のせいで人生を棒に振らされる人間に対して、政治屋ごときの“責任”が何の役にも立つものか。切腹はおろか、辞任する気もサラサラないくせに、舌先三寸のサル芝居も大概にしろ。残された時間はあまりに短い。このままでは東京五輪変異株による感染大爆発と、民主主義が否定された日本のファシズム定着は必然ではないか。いかなる結果が招かれようと、そんなものに屈する生き恥だけはさらすまい。
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私が東京五輪に断固反対する理由

植山直人氏「政府は命をなんだと思っているのでしょうか」

著者:植山直人(うえやま・なおと) 1958年、福岡県生まれ。90年に鹿児島大学医学部を卒業。その後、救急医療、在宅医療、老人保健施設などに携わる。2009年、全国医師ユニオン創設時から代表に就任、現在に至る。ほかにドクターズ・デモンストレーション代表世話人、医師労働研究センター理事長など。(全国医師ユニオン代表)
公開日:2021/06/23 06:00 更新日:2021/06/23 13:11

植山直人 私が代表を務める全国医師ユニオンは5月13日、政府に対し「東京大会中止」を求める要請書を提出しました。医療現場にいる我々は非常に大きな危機感を抱いているからです。
そもそも、関係者のワクチン接種が東京五輪開催の大きな鍵になっているようですが、ワクチンは万能ではありません。モノによっては90%ほどの有効性があるにせよ、選手だけでも1万人超。関係者を含めて5万人ほどの全員が接種したと仮定しても、10%にあたる5000人は感染リスクが付いてまわるのです。変異株だって続々と登場している。
これまでコロナ対策で世界的な評価を得てきた台湾やベトナムの牙城は、イギリス株によって崩壊しました。英国にしても、5月24日の段階で2200万人(成人の約43%)が2回のワクチン接種を終わらせており、ロックダウンは解除されようかという状況でした。それでも、インド株による感染拡大が進んでいる。変異株は感染力が強化したことはもちろん、ワクチンが効きにくい可能性すら示しています。

■夏はただでさえ医療現場が逼迫する

私が懸念するのは感染拡大だけじゃない。一年のうち、病院がもっとも忙しいのは冬と7月、8月です。例年、夏は熱中症患者の対応に追われ、どこの病院もてんてこ舞いになる。そこにコロナ対策が加わるのです。熱中症の症状は発熱やだるさなどで、コロナと似ています。そのため、救急隊が熱中症疑いの人に駆け付ける際はコロナも疑い、完全防備で駆け付けなくてはなりません。現場がますます逼迫するのは明白です。
病床使用率に対しても大きな勘違いがある。これは「十分な人材がいた場合」という条件付きのものなのです。たとえば、医者や看護師が足りなければ「病床使用率70%」といっても、もう新規感染者を受け入れられないなんてこともある。医療現場はただでさえ人材不足で、1年半に及ぶコロナ禍で現場は疲弊しきっています。退職を余儀なくされる医療従事者は、これから増加するでしょう。
他にも選手の隔離期間0日問題や、毎日受けるというPCR検査の不確実性……。不安要素を挙げるとキリがない。
これまで、政府は何をしていたのか。PCR検査数、ワクチン接種率は先進国の中で最低レベル。ひとりの医師として恥ずかしい思いです。それでも、国民の犠牲を顧みずに五輪開催へ突き進み、いまだに観客の有無を議論している惨状――。
いったいどこが「安心安全な大会」なのか。政府は命をなんだと思っているのでしょう。