値上げで大幅黒字に庶民の怒り

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世にもふざけた岸田政権と電力大手

公開日:2023/08/04 17:00 更新日:2023/08/04 17:00

値上げ強行の恩恵でV字回復だ。

電力大手10社の2023年4~6月期決算が出そろい、実に8社(北海道、東北、中部、北陸、関西、中国、四国、九州)の最終損益は同期としての過去最高の黒字を叩き出した。東電は過去最高には達しなかったものの、1362億円の黒字。前年同期の481億円の赤字から大幅に利益を回復させた。
燃料高騰が落ち着き、調達コストを抑えられたとはいえ、利益押し上げの要因は何と言っても電気料金の値上げだ。
電力各社は資源高を理由に国の認可なしに自社の裁量で値上げ可能な家庭向けの「自由料金」や、事業者向けの料金を相次いで値上げ。中部、関西、九州を除く7社は政府の認可が必要な「規制料金」の値上げも申請した。パフォーマンス好きの河野消費者担当相が一時「待った」をかけ、上げ幅は2度縮小されたが、政府は結局、6月からの値上げを了承。規制料金を14~42%引き上げ、標準的な家庭の月当たりの負担増は2000~5000円程度となった。おかげで値上げした各社の収益は大きく改善。東電は値上げ分だけで「30億円の収支好転につながっている」(山口副社長)とシレッと説明していた。
さらにタマげたのは24年3月期の業績見通しだ。通期予想を見送った東電と沖縄電力を除く8社の最終損益は、計9405億円の黒字を見込む。計約4170億円という巨額の最終赤字に苦しんだ前期から一変。前期の赤字を埋めるには十分すぎるほどの大幅黒字予想だ。しかも1兆円近い黒字のうち、法人向けを含め電気代の値上げが8000億円規模で収益を押し上げるというから、腑に落ちない。

■決して身を切らず利用者にひたすら転嫁

昨年11月に規制料金の値上げを申請した際、東北電の樋口社長は「このままでは電力の安定供給に支障を来しかねない。さまざまな物価が上昇する中、心苦しい」と“泣き”を入れたものだ。その東北電の24年3月期の通期予想は最終損益1400億円の黒字。前期の赤字1275億円から2675億円もの収益改善のうち、値上げが1772億円も寄与するという。
苦しいから値上げを申請したはずが、いざ容認したら、まさかのウハウハ決算とは、納得のいく説明が欲しい。猛暑が続く中、電気代を節約するため、エアコンの使用を控えようとする人もいる。そのため、熱中症で救急搬送される人も続出。入所者の体調管理にエアコンが欠かせない高齢者施設では、電気料金値上げで運営はアップアップだ。中・小規模の工場内では、跳ね上がるコストを少しでも削ろうと節電に励んでいる。それこそ命を削る思いで電気料金値上げに耐え忍んでいるのに、カツカツの生活苦の庶民の懐に手を突っ込んだ電力大手は軒並み、過去最高水準の利益を上げることに、SNSではオドロキと怒りの声があふれている。経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言った。「止まらない物価高に庶民生活は疲弊しているのに、値上げに走る電力大手の企業努力はサッパリ見えません。政府が標準家庭で月額2800円の負担緩和策を講じているとはいえ、9月で終了の予定です。値上げの審査過程では電力大手の高コスト体質も指摘されたのに、まるで知らん顔。供給原価に適正利潤を上乗せして電気料金を決める『総括原価方式』にあぐらをかき、電力大手は決して身を切ろうとしない。利用者にひたすら転嫁してしまえという発想から抜け切れないのです。福島第1原発の廃炉にかかる莫大な費用だって『廃炉円滑化負担金』として私たちの電気料金から巻き上げています。本来なら費用を負担すべき東電まで値上げで大幅黒字とは釈然としません」
値上げで大幅黒字への庶民の怒りは当然だが、規制料金の値上げを見送った3社の動きにも留意しなければいけない。うち関電と九電には複数の原発を再稼働しており、発電コストが低く抑えられていると称して申請しなかったという共通点がある。
「東日本と西日本で電気料金の格差は一段と拡大。それこそが原発回帰に大転換した岸田政権の狙いで、料金格差の解消を呼び水に値下げをうたえば、原発再稼働に国民の賛意を得られると踏んでいるのではないか。値上げ申請の際、北海道電は原発再稼働すれば料金を引き下げる意向を示し、東電や東北電なども原発の再稼働を一部織り込んでいました。23年4~6月期決算で東電が通期の業績予想を避け、新潟の柏崎刈羽原発の再稼働時期が見通せないことを理由に挙げたのも、まるで再稼働が既定路線にあるかのようでもあります。値上げラッシュに苦しむ庶民感情を逆手にとった“ショックドクトリン”には悪辣さを感じます」(政治評論家・本澤二郎氏)