放置される「副反応不疑い死」

コロナワクチンの接種で放置される「副反応不疑い死」

救済制度が機能しないため国民は泣き寝入り

東洋経済オンラインLINK 1/18(水) 5:51配信
新型コロナクチンの接種が始まって、まもなく2年になる。ワクチンで多くの命が救われた一方で、「泣き寝入り」を強いられる人たちもいる。重い副反応と疑われる病症で亡くなった人と、その遺族だ。
健康を保つための予防接種で、まさか命を落とそうとは誰も思ってもいない。しかし、頻度は低いとはいえ、重篤な副反応は必ず生じる。免疫の仕組みは極めて多様・複雑で、未知の領域が広がっているからだ。その「まさか」が起きたとき、接種と死亡の因果関係の証明という壁が立ちふさがり、遺族への補償は顧みられず、泣き寝入りを余儀なくされる。このままでは「安全・安心」をうたうワクチンへの信頼が揺らぐ。反ワクチン陰謀論がかき立てられる理由もそこにある。

■被害者の救済が進まない理由

なぜ、被害者の救済が進まないのか。制度の「落とし穴」を探ってみよう。厚生労働省は、ワクチンの副反応による健康被害に対し、2つのしくみで臨んでいる。前面に押し出しているのは、接種状況をモニタリングする「副反応疑い報告制度」だ。これは医療現場で患者を診た医師や、製薬会社が副反応の疑いがある症例を国に知らせる仕組みだ。報告は「PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)」に送られ、接種と死亡・後遺症などの因果関係の評価が行われる。個々の評価は、さらに厚労省の副反応検討部会に送られ、ワクチン接種の可否が判断される。
この制度による医療機関から厚労省への「重篤な副反応(死亡・障害・入院など)」報告は、すでに8000件を超えた。このうち死亡例は1921件(2022年12月16日時点)と増え続けている。一家の大黒柱を失い、途方に暮れる遺族は少なくない。 
問題は、PMDAが下す因果関係の評価である。厚労省が公開している報告データを筆者が調べたところ、1921件の死亡例のうち、少なくとも220件以上は、患者を診療した医師や、死後に病理解剖をした医師らが、「関係あり」と報告している。
ところが、PMDAは、接種と死亡の因果関係を1例も認めていない。死亡事例の99%以上が「情報不足」などを理由に「評価不能」とされ、残りは因果関係が否定されている。医療の世界で先に患者を診た医師の判断をくつがえすには、相当な根拠が必要とされるのだが、「評価不能」のグレーゾーンに逃げ込んでいるようにもみえる。
そのPMDAから情報を送られた副反応検討部会は、定期的に「ワクチン接種によるベネフィットがリスクを上回ると考えられ、ワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められず」とお墨付きを与え、大量のワクチン接種が継続されている。
しかし、遺族にとって「評価不能」の判定は心理的な落とし穴となる。夫を副反応疑いの心筋症で亡くし、幼い子どもを抱える30代の女性は、「評価不能ってどういうこと?  夫はどうして死ななきゃいけなかったの、とガックリきて、もう補償も無理だと目の前が真っ暗になりました」と語る。
ただし、諦めるのはまだ早い。副反応報告は安全性を調べるためのモニタリングの仕組みであり、本来、個別の救済とは関係ない。被害者を救う、もう1つの制度がある。「予防接種健康被害救済制度」がそれだ。こちらは「迅速に幅広く」被害者を救うことを目的とし、救済制度の本丸ともいえる。

■救済制度で認められたのはわずか15件

救済制度の手続きは、被害を受けた本人(入院・後遺障害などの存命者)や遺族が、接種時に住民登録をしていた自治体に、「必要書類」を揃えて療養手当や死亡一時金(4420万円)の補償申請を行うところから始まる。申請は都道府県を経由して厚労省に送られ、厚労省の疾病・障害認定審査会で1件ずつ請求の認否が審議され、厚労大臣が最終判断を下す。事実上、審査会で救済するかどうかが決まる。
審議結果は厚労省から自治体を通して被害者や遺族に戻ってくる。否認されて死亡一時金が不支給となった場合、不服であれば都道府県知事に審査請求ができる。審査請求をしても主張が認められなければ、自治体の不支給決定の取消訴訟を起こすことも可能だ。
では、「迅速に幅広く」と掲げる救済制度は、家族を失った遺族をどのぐらい救っているのか。これが驚くなかれ、2022年12月12日時点で、遺族からの死亡一時金(4420万円)請求が、疾病・障害認定審査会で認められた件数は、わずか15件(90代4件、80代5件、70代4件、40代1件、20代1件)。審査が遅れる理由を厚労省の中堅幹部に聞くと、「マンパワーが足りない。例年の30倍ぐらいの申請が押し寄せているのに全然、人がいない」と述べた。もっとも、遺族の声に耳を傾けると審査以前の問題が次々と浮かび上がる。
50代の大田義男さん(仮名)は、ファイザー製ワクチン2回目接種の3日後に急死した息子の死因を知りたくて、病院や行政機関に掛け合い、行き着いたのが被害救済制度だった。ところが、問い合わせた自治体の職員が制度を理解しておらず、医師向けの副反応疑い報告の書類を送ってくる。ここでボタンの掛け違えが起きた。大田さんは語る。
「届いた書類をワクチン接種担当の医師に渡し、副反応疑い報告を出してもらいました。でも、因果関係は評価不能でおしまい。その後、知人に教えられ、救済制度の申請を考えたのですが、必要な書類集めで立ち往生しました。遺体の病理解剖をしなかったので、因果関係を証明する書類がないのです。医師も警察も解剖の必要性を言ってくれなかった。悔いが残ります」
副反応疑い死1921件のうち、病理解剖されたのは1割程度にとどまる。救済制度を公務員が知らなければ意味がない。そもそも病理解剖の少ない日本で死因の特定は難しい。それでも厚労省は申請に必要な書類として「診療録等」を求め、ホームページ上で「予防接種を受けたことにより死亡したことを証明することができる医師の作成した診療録(サマリー、検査結果報告、写真等)含む」と説明している。これを読むと接種と死亡の因果関係を証明したカルテ、あるいは病理解剖による検査結果や写真が必要だと受け取れる。だが、接種後の突然死では、治療目的の診療を受けていないため医師の診療録がない。病理解剖の件数も極めて少ない。厚労省は「迅速に幅広く」救うといいながら、因果関係の証明を当事者に課して申請件数を絞っているのではないか、と勘ぐりたくもなる。

■弁護士は「厳密な証明がなくても諦めずに相談を」

立ちふさがる因果関係の壁をどうとらえればいいのか。新型コロナワクチン被害救済事例検討会の代表で弁護士の升味佐江子氏は、次のように指摘する。
「接種と死亡の医学的な因果関係を証明することは、専門医でもとても難しいのです。これを求めたら、救済される人は極端に少なくなる。それでは、簡易迅速にとりあえずは被害者を救済しようという制度の目的は果たせません。そこで厚労省は救済制度の認定に当たって〈厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする〉という方針を明言しています。救済制度で支払われる補償金の額は、年齢や収入の違いを問題にせず、どんな被害者に対しても同じです。大まかにいえば、予防接種という国が行う制度によってたまたま犠牲になった人が出たら、その全員に最低限の補償をしようというものなのです」
だから、救済制度では、医師の過失による死亡医療事故の損害賠償を求める訴訟のときのように、何が過失かを遺族側が明らかにして、その過失と死亡の間に「高度の蓋然性がある」ことを証明せよという厳密さまでは求められていないわけだ。
「賠償とは違って、補償ですから高度の蓋然性があるというレベルまでの厳密な因果関係を証明できなくても認められることがあります。ここがミソです。副反応が疑われる死亡事例では、ご遺族は、尻込みせず、諦めず、市町村の窓口に率直に相談されたほうがいいでしょう。補償金を受け取った後でも、接種時の過失などを取り上げて補償では支払われない部分の損害賠償請求する権利が失われるわけではないので、まずは救済制度での補償請求をすることをお勧めします」と升味弁護士は言う。遺族は、まずは自治体への補償申請に踏み出したほうがいいだろう。補償の申請を受け取った自治体は、「予防接種健康被害調査委員会」を開き、それぞれの事例を医学的見地から調査・審議する。調査委員会が申請者に与える影響は大きい。調査委員会で、どのような追加資料が必要か、何が足りないか審議され、その内容が申請者に伝えられて資料集めが行われる。当初、申請者がどんなデータを出しても資料不足とはねつけていた調査委員会が、大学病院の病理検査報告が追加されたとたん態度を一変。「因果関係が推測できる」と結論を出し、国に申請を送った事例もある。
確率は低いとはいえ、副反応疑い死は実際に発生している。遺族にとって、接種後の家族の死は100パーセント現実だ。救済はワクチンを推奨する国の責務であろう。