旧統一教会との接点、自民党の自主点検リストに重要人物の名無し

東京新聞  政治

自民党の自主点検リストに「あの面々」の名前なし 

2022年9月10日 17時00分
閲覧希望:>https://www.tokyo-np.co.jp/article/201358
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と国会議員の関係を巡り、自民党が8日に公表した点検結果は消化不良感が強かった。自己申告に頼る手法は限界がある上、公表された文書に「あの面々」の名はなかった。受け止め方に困る点検で幕引きさせていいはずがない。となると、真相に迫る術すべをどう考えるべきか。一部で取り沙汰された「国会に調査委員会」は効果的なのか。改めて探ってみた。(特別報道部・宮畑譲、中沢佳子)
自民党が公表した国会議員の一覧表はこちら(敬称略)>https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vQZEF8kAwuIwUik-pi-IGQFm9ZQlLG5eZgYW5Xit4ub--azOPlbzoYQyJwx7r4-yc8mVbnAe0VMv9nv/pubhtml?gid=610584503&single=true

◆一部は氏名非公表、点検対象から除外も

「こんな『点検』を誰が信用するんだ」「こんなんで鎮火するつもりだったんですかね」「どこまで国民をなめたら気がすむんだ」
公表された自民党の点検結果に対し、SNS上では疑問や怒りの声が相次いだ。その中でも、山谷えり子参院議員の名前がなかったことに対する風当たりは強かった。選択的夫婦別姓に反対するなど、山谷氏と教団の保守的な家庭観などは共通しており、自民党の中でも教団との関係が特に近い議員の一人とみる向きがある。ジャーナリストの有田芳生氏は、教団が山谷氏への投票を呼びかけたとされる内部文書を公表している。
今回の点検結果の文書に山谷氏の名前がなかったのはなぜなのか。
同氏の事務所に問い合わせると、教団と関係が深い日刊紙「世界日報」や月刊誌「Viewpoint」にインタビュー記事などが掲載されたことを申告したと認めた上で、「名前の公表については、党本部の方針によるので、党本部に確認願います」と回答。一方の自民党は「昨日、会見した通り」との答えだった。自民党の点検で接点が確認された国会議員は計179人に上った。このうち、氏名が公表されたのは、選挙で支援を受けたり、会合に出席したりした121人に限られた。しかも、政治と教団の関係が問われる発端となったと言える故・安倍晋三元首相は対象外とされ、同様に教団との関係が疑われる細田博之衆院議長についても点検から除かれた。
これだけでも首をかしげたくなるが、密な関係が疑われる他の面々の名がなかったことに疑問が湧く。教団系の政治団体「国際勝共連合」は1986年と90年の機関紙「思想新聞」で、反共の運動に同調する「勝共推進議員」の名簿を掲載した。いまの党の重鎮でいえば、副総裁の麻生太郎氏、財務相や防衛庁長官を歴任した額賀福志郎氏、現閣僚では財務相の鈴木俊一氏の名があった。ところが今回の点検結果の発表に際し、氏名が公表されることはなかった。
3氏の事務所に事実関係を尋ねたが、麻生事務所は「思想新聞の件は確認しようがない。名前の公表については党本部に聞いてほしい」とし、額賀、鈴木両氏からは締め切りまでに回答はなかった。いずれにせよ、議員の自己申告による「点検結果」では、不十分と突っ込まれるのは明らかだ。なのになぜ、自民党はそんな対応を取るに至ったのか。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「外部からちゃんとやられたら、まずいことになる、その前に早く幕引きをしたいという認識があるのだろう」とみる。今回の点検は国会議員を対象にしたが、自民の地方議員が教団と接点があったことも明らかになっている。そうしたことを踏まえ、角谷氏は「やることはまだまだいっぱいある。税金で賄われている党がこの程度の点検でいいわけがない。一件落着というレベルではない」と憤る。

◆野党は国会に調査委設置を提案 どこまで全容解明できる?

消化不良を感じる点検結果。「これで幕引きなら、国民をなめている。国会に特別委員会を設けることを提案する」。れいわ新選組の山本太郎代表は「こちら特報部」の取材にそう訴える。「教団問題は国の根幹に関わる。教団がいかに政治をゆがめたか追及し、前職や元職、議員秘書も含めた参考人招致などで膿うみを出さなくてはならない」8日に会見した立憲民主党の泉健太代表も似た考えを持っており、国会に調査委を設置するよう求めた。
国会の下に設けられた調査委といえば、東京電力福島第一原発事故を受け、2011年12月にできた国会事故調査委員会がある。法律に基づいて設置され、文書の提出請求権を持つなど、強い権限が与えられた。委員は有識者の10人。関係者延べ1167人に聞き取り調査し、事故発生時の首相だった菅直人氏ら主要人物を公開で聴取した。ただ、事故の全容を解明できたわけでもない。12年7月にまとめた報告書もそう認める。委員の一人で元原子炉設計技術者の田中三彦氏は「活動を始めてから報告書を出すまで半年。調査期間は実質3カ月しかなかった。委員自ら調べ、徹夜で報告書を仕上げた」と振り返る。7つの提言が実現されていないのも不満だという。「国会に原子力問題を扱う常設の委員会や、未解明部分の究明などに当たる第三者機関の設置を求めた。『原子力問題調査特別委員会』という組織はできたが、提言のイメージとは似て非なるもの。さらなる検証は不十分のままだ」
同じく委員だった崎山比早子氏は、教団を巡る調査委は人選が課題とみる。「どんな人を委員にするかとともに、委員を選ぶのが誰かも問題。自民党が人選したら、機能しない」
政治と教団の関係が取り沙汰される中、「何が問題か分からない」と言いのける政治家もいる。強く非難されたが、教団が抱える問題を政府が明確にしていないゆえの発言にも思える。裏を返せば、教団との関係を議論するには、教団の問題点をクリアにする必要があるとも言える。
大阪公立大都市文化研究センターの中西尋子研究員(宗教社会学)は金銭トラブルもさることながら、政治への影響に目を向ける。
「教義を政策に反映させたり、教団に対する追及を止めたりなど、議員が教団に便宜を図った疑いがある。教団の名称変更が認められたのも、その一つだ」。問題ある団体と濃いつながりを持つ議員ほど、背負う罪は重くなる。濃淡を判断する上で重要なのは何なのか。中西氏は、議員の命運を左右する選挙を挙げる。「教団は選挙運動を手伝い、組織票を入れてくれる。選挙や票集めでどんな支援を受けたかは、関係の濃淡をみるポイント」
宗教学者の島薗進氏は、求められれば祝電を打ち、会合に出る議員も疑問視する。「相手が国民生活にどんな影響を与える団体か調べるのは当たり前だ。票になればどんな団体も利用するなんて考えは、政治家のモラルとしておかしい」
島薗氏は重点的に検証すべき時期について「2009年以後」と指摘する。教団関連とされる会社の社長らを警視庁が逮捕した「新世事件」のころだ。「刑事事件になったことで教団は政治家工作を強めた。自民は下野し、宗教団体の集票力を利用するようになった」と見立て、「このころからたどれば、党内の点検で接点なしとされた政治家の名前も浮かぶかもしれない。国民全体が問う問題について、時の政権に左右されずに判断する公的性格を備えた持続的組織が必要だ」と述べている。

◆デスクメモ

「萩生田氏 際立つ関係」。本紙9日付朝刊にあった見出しの一つだ。ただ、点検結果は受け止め方が難しい。自己申告頼みゆえ、黙り込む議員は同氏以上の関係があっても表出しない。正直者がバカをみる社会。その縮図が自民党内にあるわけではないですよね、お歴々の皆さん。(榊)
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