安倍元首相の国葬の是非

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安倍元首相の国葬の是非、なぜ世論調査をしないのか

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71126

反対意見は「認識していない」は、ただ「認識したくない」だけ

安倍元首相の弔問に訪れた自民党の茂木敏充幹事長。「国葬」に反対する一部野党の主張について、「国民の声とはかなりずれている」と反論した(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
政府は安倍元首相の国葬を9月27日に日本武道館で行うことを閣議決定した。費用は全額国費、松野官房長官は「国民一人一人に政治的評価や、喪に服することを求めるものではない」と強調した。
国葬の理由として、安倍政権が憲政史上最長の8年8カ月の長期政権だったこと、内政と外交の面で功績を残したこと、各国での安倍元首相の評価が高いこと、世界各国から要人たちが来日して岸田首相の外交ができる、などが挙げられている。しかしいつものことだが、ただ会うだけではなんらかの実効性があるわけではない。松野官房長官は国葬に批判的な野党に対して、「国の内外から幅広い哀悼の意が寄せられていることなどを勘案し国葬を執り行うこととした」と述べた。国内で「幅広い哀悼の意が寄せられていること」というのは、次のような事実も勘案されたかもしれない。
安倍元首相の棺が東京に移送されたとき、沿道に多くの人が集まった。なかには泣いているおばさんや若い女性がいた。わたしは、かれらがなぜ泣いてるのかわからなかったが、このような光景が自民党関係者に国葬を考えさせた一因になったかもしれない。後方警備がなかった杜撰さは言い訳できないが、あの第一砲では警備員たちも一瞬なにが起こったかわからず、立ちすくんだことは無理もないと思った。それでも、犯人に数人も飛び掛かるのは無用で、警備員は即座に安倍元首相を庇い、態勢を低くさせるべきだったというアメリカの民間警備会社のCEOの指摘は説得力があった。日本の警察や自衛隊はいざとなったら大丈夫なのか。日本人はカッコだけだからなあ。
わたしは「国葬の意向」と聞いて、一番先に、戦中の昭和18年に行われた山本五十六元帥の国葬の映像を思い出した。軍楽隊をともなった棺の葬列は1キロにも及び、芝の水交社(海軍の外郭団体)から日比谷公園葬場まで行進した(YouTubeで見ることができる)。今回の国葬はそんな大げさな葬列にはなるまいが、あれをやるのかと思ったのである。安倍元首相はそんな大政治家だったか? そんなわけはない。
安倍元首相は内政、外交に多大な功績を残したというが、そんな実感はまったくない。失われた30年の日本社会の停滞ぶりと国民が感じている生きづらさがその証拠である。その内、3年ほどは民主党政権だったが、大半は自民党政権だったわけで、そのなかでも約9年を担った安倍政権はそれだけ責任が大きいことになる。

アベノマスクは結局いくらだったのか

あるかないかの功績を云々するよりも、むしろ森友問題や加計学園問題、桜を見る会などの不祥事の印象だけが強く、最後はアベノマスク問題である。アベノマスクは最初260億円が使われたといわれたが、実際は502億円で、文部科学省のコールセンター窓口業務代37億5000万円を加えると総額539億8000万円だったというのを知り、開いた口がふさがらない(「アベノマスク「466億円が260億円になった」は真実だったのか?」政府の公文書のあり方を問う弁護士・研究者の会、https://kokuyuuti-sinsoukaimei.com/7970/)。

世論調査したのはNHKだけ?

国葬については、野党から、国民から懸念の声が上がっていると批判され、それを政府は抑え込むのに必死である。国葬は行うが、国民の服喪は強制しないし、当日は休日にしないし、官公庁や学校も休まない。そんなところへ、よせばいいのに、対外的には弱腰だが、国内ではやたら強気な自民党・茂木幹事長が、「国民から『いかがなものか』との声が起こっているとは認識していない」といい、「(野党は)国民の声、認識とかなりずれているのではないか」と語った。案の定それがまたSNSで批判され、大炎上した。こんなときは世論調査の出番だろ、どんな結果が出ている? と調べてみたところ、これがNHKを除いてひとつもないのだ。新聞社やテレビ局はふだんならなんでもかんでも世論調査をするのに、今回にかぎってはやっていないのである。
だがそのNHKの調査にしてもおかしい。NHKは、7月16日から3日間、全国の18歳以上を調査対象に2344人に電話で調査し、1216人から回答を得たという。だが、質問の仕方がおかしい。政府は今秋、安倍元首相大臣の葬儀を「国葬」として行う方針だが、この方針を「評価するか、しないか」と聞いたのである。なんだそれ? 端的に国葬に「賛成か、反対か」を聞けばいいじゃないか。なにか意図があって、わざわざまどろっこしい聞き方をしているとしか思えないのだが、ともあれ結果は「評価する」が49%、「評価しない」が38%である。「評価する」を賛成、「評価しない」を反対と見做すなら、賛成は約50%、反対は約40%であり、国民の「懸念」を無視していいほどの数字ではない。茂木氏の、国民の反対意見は「認識していない」というのは、ただ「認識したくない」ということである。
とにかく27日現在、このNHKの調査が安倍元首相の国葬の是非を問う唯一の世論調査である。もうこのまま新聞社もテレビ局もやる気はないようである。ふだんなら競い合うようにするのだが、やらない理由がわからない。わたしは国葬に反対である。死者に鞭打つつもりはまったくないが、それに値する政治家とは評価できないからである。そんなにやりたければ、自民党葬でやればいい。
1947年に行われた吉田茂首相の国葬は、国内外5000人の弔問客を招いたという。また自宅から武道館まで葬列の行進が行われ、沿道には70万人の人々が集まり、葬列を見送ったといわれる。
今回もおなじような形になると予想される。どこから出発するかわからないが、武道館までの葬列行進は行われるだろう。大げさにはしないだろうが、それでも大規模な警備体制が必要となる。
2020年に行われた中曽根元首相の内閣・自民党合同葬では、開催費約1億9000万円のうち、公費負担が過去最高の9600万円になったといわれる。今秋の国葬の予算がいくらになるか発表されていない。もう時間がないからおそらく予算は計上され、動きはじめていると思われるのだが、数字を発表はしないだろう。おそらく数億円がかかるだろうが、それが数十億円になっても、わたしは驚かない。
アベノマスクはたった一人の首相秘書官の思い付きだけで、なんと500億円も使ったのである(わたしはまだ未使用のマスクを持っている)。それでいまだになんの反省もなく、平然としている政治家であり官僚である。5億円や10億円など、かれらにとってはした金にすぎない。この30年、安い賃金で黙々と働いている国民が不憫でならない。ほんと、もっとまじめに真剣にやってくれよ。