日本にあふれる「無意味な労働」

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日本にあふれる「無意味な労働」、生産性が低いのはこれのせ…

◆ブルシット・ジョブとは

グレーバーはブルシット・ジョブは五つに分類できるという。
(1)誰かを偉そうに見せるための取り巻き(受付係、ドアマンなど)
(2)雇用主のために他人を脅迫したり欺いたりする脅し屋(ロビイスト、顧問弁護士など)
(3)誰かの欠陥を取り繕う尻ぬぐい(バグだらけのコードを修復するプログラマーなど)
(4)誰も真剣に読まないドキュメントを延々と作る書類穴埋め人(パワーポイントを量産するコンサルタントなど)
(5)人に仕事を割り振るだけのタスクマスター(中間管理職など)
異論はあるだろうが、なるほどと思うところも多い。
さしずめ、私が銀行本部にいた時の仕事は(4)ではないだろうか。すぐに破棄されるような書類の山を必死で作っていた。
最近、新型コロナウイルス禍でリモート勤務となり、中間管理職の人は部下の管理に悩んでいるという。グレーバーが(5)で指摘しているように、中間管理職とはなんぞや、とその存在意義が問われ始めているのだ。ばかばかしい話だが、リモートかつマスク着用で、新しいスタッフの顔が分からないというある中間管理職から悩みを聞かされ、嘆いていいのか、笑っていいのか、分からなくなったことがある。部下の顔の区別もつかないで、どうやって部下を育成するのだろうか。

◆仕事をしているふり

いずれにしても今後、中間管理職の役割が不要、あるいは見直されていくことは間違いないだろう。
コロナ禍が収まっても、中間管理職、あるいは役員さえも不要となれば、労働生産性が上昇するかもしれない。会社というものは成長するにつれ、実際の製造現場より、管理という名の本部機構の人員が増えてくるものだ。そこに働く人は、仕事をしているふりをするのがうまい。
例えば、社長が出掛けようとエレベーターの方に歩きだすと、どこからともなくさっと現れ、エレベーターのボタンを押す人がいる(もちろん秘書室員だが)と聞いた。絶えず社長の行動をモニターで監視し、その動きに遅れないのを使命にしているのだ。これなどはグレーバーの指摘する(1)に該当するのだろうか。
また、グレーバーの言う(2)の顧問弁護士の役割も怪しい。彼らは相当な高給取りであるが、本当に役に立っているのだろうか。
第一勧銀総会屋事件の際のことだ。銀行が不正融資をしているにもかかわらず、トップが不正ではないと言う意見を聞きたいと願っていることを知った顧問弁護士は、「不正融資ではない」という内容の意見書を提出した。トップはそれを読み、「良かった。安心しました」と笑顔になった。誰が見ても不正融資なのに、トップにこびる意見書を出すのは許せないと思い、私はその弁護士を糾弾した。すると、ふてくされて顧問弁護士の座を降りてしまった。
ことごとさように顧問弁護士はトップから意見を求められると、トップの意向に添った意見書を書くことが多い。トップに諫言(かんげん)するような顧問弁護士は見たことがない。
問題は、グレーバーがブルシット・ジョブだと指摘しても、私たちの多くは、それを文句も言わずこなしているからだ。中には使命感を持って取り組んでいる人もいるだろう。

◆やたら〇〇ばかり多くなる

岸田氏が「成長なくして分配なし」ではあるものの、「分配なくして次の成長なし」との政策を具体化していく場合、生産性の向上と賃金などによる分配がパラレルで上昇するように考えてもらいたい。
やたらと企画ばかりが多くなり、やたらとコンサルタントばかりが多くなり、やたらと会議ばかりが多くなるようでは駄目だろう。
岸田氏が手足のように使わねばならない官僚機構も、日本の場合、縦割りになっていて、ブルシット・ジョブだらけなのではないだろうか。
例えば、コロナ禍での危機対応の失敗だ。欧米から見ればコロナの罹患(りかん)者は圧倒的に少ないのに、どうしてあれほどまで病床確保ができないのか。コロナがはやりそうだという情報を入手しても、なぜすぐにワクチン製造や経口薬製造に取り掛かれないのか。いまだに説明不足のまま、コロナ第6波の危険性が強調されるばかりだ。これらも官僚制度の縦割りの弊害ではないのか。個々の官僚たちは必死で役割を果たしているのだろうが、それらがブルシット・ジョブになっているのだろう。2050年にカーボンニュートラルを実現すると、菅義偉前首相が公約したが、世界はもっと早くそれを実現するため、国家を挙げてグリーン・リカバリー戦略を推進している。新たな産業革命とでも言うべき状況だ。日本が先進国であるためには、待ったなしの状況である。日本の製造現場、オフィス現場の生産性を向上させ、それらから生み出される利益を労働者に正当に分配するためにも、日本の官僚組織、会社組織からブルシット・ジョブを排除する仕組みが必要になるだろう。
(時事通信社「金融財政ビジネス」より)
【筆者紹介】
江上 剛(えがみ・ごう) 早大政経学部卒、1977年旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。総会屋事件の際、広報部次長として混乱収拾に尽力。その後「非情銀行」で作家デビュー。近作に「人生に七味あり」(徳間書店)など。兵庫県出身。