もうピークアウトなのに

現代ビジネス2/14(月) 6:02配信

今さら「1日100万回」接種と言われても、もう遅いよ岸田政権の仕事が致命的にダメな理由

もうピークアウトなのに

オミクロン株による第6波がピークアウトした模様だ。他の先進国でも同じ傾向で、既にピークアウトした国も少なくない。本コラムでも書いてきたが、筆者は1月上旬の段階で、日本においては第6波のピークは2月上旬とみられ、一日あたりの新規感染者数は10万人程度になるだろうと予測し、地上波などでもそう話してきた。まずまずだろう。これまでの日本の新型コロナ対策は、運にも恵まれた面もあるが、結果としてはまずまずだった。以下の超過死亡のデータを見ても、先進国が3~15%増なのに日本はほぼゼロと突出して良い成績だ。一方、岸田首相はここにきて、ワクチン3回目の接種について「1日100万回」を目指すと表明したが、本コラム1月17日「もう手遅れ! 岸田政権の「オミクロン対策」と「増税論」は根本的に間違っている」で書いたように、はっきり言って遅すぎる。ワクチン接種が他国より遅れた根本的な原因はどこにあるのか。
岸田首相は2月7日午前の衆院予算委員会で「1日100万回」の政府目標を表明した。前日6日の首相動静をみると、午後5時16分から同6時49分まで、後藤茂之厚生労働相、松野博一官房長官、木原誠二官房副長官、栗生俊一官房副長官、山際大志郎経済再生担当相、堀内詔子ワクチン担当相、藤井健志官房副長官補、森昌文首相補佐官、迫井正深内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室長、安藤俊英外務省領事局長、厚労省の吉田学事務次官、福島靖正医務技監、伊原和人医政局長と書かれている。ここで、1日100万回の方針が決められたのだろう。

得意の「ちゃぶ台返し」

だがそのわずか4日前の2月2日、岸田首相は、「一律に何万人という目標を掲げることが現状において適切かどうか?」と否定的に答えている。またもや、岸田首相の得意技化した「ちゃぶ台返し」だ。
2日の否定発言の後、読売新聞の内閣支持率調査により支持率低下が発表されたことも関係しているかもしれない。他メディアでの内閣支持率は1月下旬から低下傾向にあったので、2月2日の発言は不用意だった。岸田政権のことを、リベラル系の朝日、毎日は安倍・菅政権ほど叩かないが、保守系の読売も、渡邉恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆の個人的な応援もあって岸田政権の方針については比較的寛容だ。その読売での内閣支持率低下の記事が効いたのだろうか。ワクチン接種が遅れたのは、岸田政権の新内閣により、厚労大臣とワクチン担当大臣を代えたという人事の失敗だ。まず前首相と比べたときの問題意識の差がある。
ワクチンの調達に関していえば、菅・前首相は、昨年4月中旬バイデン大統領と西側諸国ではじめての対面での首脳会談を行い、それと合わせてファイザー社社長とも会談し、日本として有利なワクチン調達を行った。さらに、ワクチンの打ち手問題が起こりかねなかったので、歯科医師にもワクチン接種を認めた。今の医師法の下における「超法規的措置」だ、これについては、昨年5月10日の本コラム「マスコミが報じない…コロナワクチン「打ち手不足解消」のための「超法規的措置」」をご覧いただきたい。それに引き換え、岸田首相の問題意識は低かった。その証拠に、72才の分科会長の尾身茂氏の3回目のワクチン接種が2月5日という報道があったが、64才の岸田首相は未だに3回目のワクチン接種を行っていないようだ。要するに、3回目のワクチン接種への準備がなかったのだろう。

人事の失敗がすべてのはじまり

その岸田首相が人事でもミスった。どのような組織でもトップの仕事は決断であるが、そこに至るまできちんとして部下がいることが大前提だ。その意味でまともに仕事ができるかは人事にかかっている。
岸田政権の最初の党・閣僚人事で、安全保障の観点から見れば、東アジア情勢と新型コロナ対応はともに「有事」と言ってもいいので、外務、防衛、厚労、ワクチン担当大臣は留任と筆者は思っていた。しかし、蓋を開ければ、外務、防衛大臣は留任だったが、厚労、ワクチン担当大臣が代わった。これは意外だった。
菅義偉前首相は、厚労省に任せておくとワクチン接種は遅れるので、総務省を使いワクチン担当大臣を新設し河野太郎氏を任命し、しっかりと河野大臣に権限を与えた。このおかげで、先進国で最速のワクチン接種スピードになった。ところが、岸田政権では事実上「先祖返り」になった。後藤厚労大臣は8ヵ月経たないとブースター接種はできないと厚労官僚に言いくるめられた。河野前大臣と較べると、堀内ワクチン担当大臣の存在感は見る影もない。そもそも大臣が代わると、官僚からの業務レクチャーで2週間くらいの時間が取られる。しかも、閣僚が代わった途端に途端に総選挙になったものだから、どこまで新閣僚が役所事務を理解しているのか不安である。

決定権のない「ワクチン担当大臣」

かつて舛添要一氏が、長く厚労大臣を続けたことがあったが、それも新型インフルエンザ騒動の対応でやむを得なかったからだ。岸田政権では「人事が先にありき」で、ワクチン接種に関して、抜かりがあったといわざるを得ない。閣僚人事のミスは、実際の仕事にも大きく影響した。ワクチン担当大臣を代えたのにともない、ワクチン担当大臣のチームは半減し、都道府県とのリエゾンチームが解散した。さらに、厚労省が情報を出さず、ワクチンメーカーとの交渉が一元化されないため、ワクチン担当大臣の最終的な決定権がない──堀内ワクチン担当大臣の状況をツイートしたのは、前大臣の河野太郎氏だ。要するにこういうことだ。菅政権は、厚労省に任せていたらワクチン接種が遅れるので、ワクチン担当大臣を新設し権限を与えて都道府県に実務をやらせた。しかし岸田政権になると、厚労大臣とワクチン担当大臣を代えた機に乗じて、厚労省が巻き返しを図り、従来の厚労省主導の体制にしたのだろう。このため、後藤厚労大臣は、2回目から8ヶ月経過しないと、3回目は打てないといった厚労官僚の主張を真に受けた。海外の事例や文献では、8ヵ月経たずに接種している例も少なくないので、8ヵ月発言はワクチン接種の遅らせた一因だ。第6波がピークアウトの様相を呈してきたタイミングでの「1日100万回」発言はあまりに遅すぎし、既に手遅れになっている。医療関係者、高齢者や基礎疾患のある方を守れていない。菅政権と比較すると、相変わらず岸田政権は仕事が遅いのだ。
髙橋 洋一(経済学者)