「留学生差別、おかしい」

朝日新聞デジタル 朝日新聞社 2020/06/14 19:30

京大総長、学生給付金を批判

新型コロナウイルスの影響で困窮する学生を対象にした国の「学生支援緊急給付金」が、外国人留学生だけ成績の良さを申請要件にしている問題で、京都大の山極寿一(じゅいち)総長(68)が9日、朝日新聞のインタビューに応じた。要件を「差別的だ」と批判した上で、留学生を排除しない姿勢を取ることが「日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になる」と訴えた。同給付金を外国人留学生が申請する場合、「成績が優秀」「出席率が8割以上」といった日本人学生にはない要件を満たす必要がある。批判の声が出ており、山極氏はネット上の反対署名運動の呼びかけ人の一人にもなった。インタビューで山極氏は「(同給付金は)生活困窮者への支援だ。成績を重んじる奨学金とは目的が違う」と述べ、成績要件を批判。「日本人学生の要件は基本的に経済的な事情だけ。留学生も、経済事情が逼迫(ひっぱく)している人に支給するのが本筋だ」と指摘した。
留学生に対する日本政府の方針について、「日本も少子高齢化でだんだん労働者人口が減っていく。外国の優秀な学生を頼らなければいけなくなる時代が目の前に来ている」「優秀な留学生を集めるには、日本の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だ」と述べ、「差別するのはおかしい」と批判した。
留学生の自主性を尊重することの重要さも強調。「(在学中の数年間に)どう教育を得るかは、学生が自分でスケジュールを立てるべきだ」とし、文部科学省が前年度の成績を申請要件にしたことに疑問を呈した。
国立大の総長が国の仕組みに反対する運動に加わった理由については、「だいたいいつも、教員の立場に立っている」として、「現場の教員が『留学生と日本人を、我々は差別したくない』という声を上げることが大事だ。直接留学生と向き合う現場の教員が出すメッセージは強い」と話した。
山極氏は、野生ゴリラ研究の第一人者として知られる。「私は、アフリカ赤道直下の『ゴリラの学校』に留学した」と自らの経験を紹介。「(ゴリラは)決して排除することなく私に接してくれた。それはゴリラの社会を知る上で大変に役立った。現場に行って、いろんな人と付き合って、様々な知識を学ぶのが留学の良さだから」とも述べ、留学生を排除せず、多くの人を受け入れる姿勢が大事だと訴えた。
京都市立芸術大も同様の方針を示していることについても触れ、「個性を開花させる芸術家養成の大学であることを考えれば、そういう認識を持ったのはごく当然と思う」とも発言。「京都は文化や芸術に特化する大学が多い。留学生も多く、国際感覚を持った大学や教員も多いのではないか」との考えを示した。
この問題をめぐり、要件に反対する大学教員らがネット上で賛同署名を呼びかけたところ、10日午前0時の締め切りまでに1701筆が集まった。うち大学教員は1100人を超えた。署名は5月26日から集め、呼びかけ人には京都大の山極氏ら約40人が名を連ねた。15日にも文部科学省に結果を届ける。(小林正典)
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学生支援緊急給付金 新型コロナウイルスの影響でアルバイト収入が減るなど、困窮した学生に対する国の給付金。大学が学生から申請を受け付けて推薦者リストを作り、リストに基づいて日本学生支援機構(JASSO)が最大20万円を支給する。外国人留学生にだけ「成績優秀」の申請要件が設けられた。
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元教員として感じるのは、文科省がすでにその教育に関する国の方向を失っている。このブログでも再三取り上げている高等教育機関の独立行政法人化によって国立大学の研究資金を削りに削って私学を野放しに認可した結果、国立大学・高専には優秀な学生が集まらなくなったとともに、高等教育機関の最大の研究能力である大学院が衰退し、ポストドクターもその将来が見通せない。
大学入試センター試験で足切りをしたうえ、新入試センター試験では、つまらぬ英語検定試験まで義務化しますます、国立大学への道は険しい。一方で私学は成績度外視で学生を合格させるから益々家庭の経済力によって安易な私学に流れ、優秀な学生でも4年間の学費と生活費を考えると、大部分の家庭には無理な大学進学である。そのようにして支えることのできる家庭は大企業社員、公務員、医療関係職員の子弟に限られてくる。
せっかくのコロナ禍によるネット授業環境が整備されるのなら、国立大学はネットで自宅から学習できる方向が可能である。年に数回のスクーリングで十分学習可能であることは、ネットで行われている機械学習で十分である。すべての入試を廃止し、大学の授業はネットで閲覧できる体制こそがこれからの教育の在り方である。