共通テスト記述式白紙の戦犯・萩生田文科相

「教育勅語を本気で復活させかねない人物」と前川喜平氏

亀井洋志 ,松岡かすみ2019.12.17 13:19週刊朝日
週刊朝日 2019年 12/27 号 [雑誌] より抜粋

萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言をきっかけに、安倍政権が推進してきた大学入試改革の2本の柱がへし折られた。文科省は2020年度から始まる大学入学共通テストで導入予定だった、国語と数学の記述式問題の実施を見送ることを決めた。萩生田文科相は12月17日の会見で「教師をはじめ関係者の皆さんには、ご迷惑をおかけする結果となりました」などと述べた。拙速な上に受験生らに混乱を招いた責任はだれかが取らなければならない。最初に折れた柱は、英語の民間試験だった。萩生田氏の「身の丈」発言をきっかけに、11月1日に延期に追い込まれている。
元文科事務次官の前川喜平氏が厳しく批判する。
「萩生田さんに大臣の資格はない。一人ひとりの子を大切にするというより、国のために役に立つ人間を作るという考えで、実に権威主義的です。教育勅語を本気で復活させかねない人物であり、非常に危険だと思います。『身の丈』発言は憲法と教育基本法に真っ向から反する。経済格差に甘んじろと言わんばかりの発言で、教育の機会均等という最も大事な理念すら理解していません」
このとき、安倍晋三首相側近の世耕弘成・自民党参院幹事長は、萩生田氏が延期を決めたことについて会見でこう持ち上げてみせた。
「思いやりにあふれた決断で、高く評価したい。文科省事務方の制度設計、詰めの甘さが原因だ」
最終的には役所の責任にし、安倍首相や閣僚に傷を負わせないようにする手法は、これまでも繰り返されてきた。
元文科省審議官の寺脇研・京都造形芸術大学客員教授があきれながら言う。
「失言に対する批判を浴びて追い詰められ、わが身を守るために延期しただけではないですか。政権に傷が付かないように、周囲が萩生田さんの“英断”であるかのように吹聴するなんてとんでもない話です」

安倍首相が設置した教育再生実行会議が13年に出した提言を受けて始まった大学入試改革は、元文科相の下村博文・自民党選挙対策委員長らが英語民間試験や記述式問題の導入に携わってきた。前川氏が説明する。
「下村大臣のもと、大学入試センター試験を廃止し、新たに共通テストを設けるという話になった。しかし、もともと50万人もの受験生がいっせいに受ける試験に記述式を導入するのは、やはり無理がありました。大学の2次試験までのわずか20日間程度で、記述式の正確な採点ができると考えたのが間違いでした」
下村氏が拙速に功を立てようとした推進役ならば、萩生田氏は政治の誤りを覆い隠す幕引き役となった。
寺脇氏が怒る。
「下村さんと萩生田さんが一心同体なのは、誰の目にも明らかです。やる時は見切り発車でGO、やめる時は上から強権的にSTOPです。森友・加計問題などは安倍総理の“お友だち”など特定の人の問題でしたが、今回は多くの受験生や家族、教員、あらゆる国民を巻き込んでいます。安倍政権が手柄や功績を立てるために、受験を目前にした子どもたちまで振り回すのかと怒りを禁じ得ません」
約30万人の英検予約者のキャンセルや、予約金の返還問題なども生じる。大臣が混乱を招いた責任を問われるのは当然だろう。

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何でもかでも平等・公平にをモットーにした戦後義務教育は確かに平均的日本人の学力を向上させ中学卒業生が金の卵ともてはやされた戦後の復興期から、日本人の勤勉さと終身雇用によって短期間に経済大国にのし上がり一億総中流意識を持つようになった。しかし、バブル崩壊を機に、雇用氷河期世代に突入するとより高い教育を求めて高校全入、そのための偏差値教育、そして大学進学率が昭和29年にわずか8%ほどであったものが平成25年には50%を超えるほどにも増加した。
高校全入で公立高校は定員が減らされる代わりに私立学校はその規模を増し、しかも独自入試によって、ほとんど中学レベルの学力が出来ていない生徒までも受け入れるようになると、生徒の学力は軒並み下がっていった。その先にある大学も得体のしれない私立大学・学部が増え学生確保のために系列高校からの推薦入試で楽々大学へ合格していく。
医科大学や国立大学に合格しようとすると、それなりの進学塾や予備校に通わなければ入試はおぼつかない。そのような環境で限られた受験機会を最大限に生かすための方策として生まれた共通一次試験制度であったはずだ。それがいつの間にか私立学校や予備校が教育ビジネス化した結果大学レベルを低下させ、しかも国立大学を平成15年に独立行政法人化して国が教育への予算を毎年1%づつ削減し始めてもう15年ほど。
交付金は15%も削減され、卒業論文を書くための研究費さえ不足して、学生の論文の質も低下の一途である。もちろん最近指摘され始めた大学学術論文数が低下傾向にあることと独立行政法人化と多くの関連があることを世間に知らしめる必要がある。
共通一次は、廃止すべきであり、この共通一次試験を一手に引き受ける大学入試センターの運営にかかわる国家予算を今すぐ大学法人に還元すべきである。今回はその利権までベネッセへ売り渡した付けである。
大学独自の試験で大学教育を受ける学力があるかを判断し選抜すればよい。即刻、大学センター試験の廃止を提案する。