「五輪に『第4波』直撃も」

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「五輪に『第4波』直撃も」

古賀茂明 2021.1.5 07:00週刊朝日編集部
2021年は大変な年になりそうだ。
もちろん、一番気になるのは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。いつ収束するかという先の話よりも前に、正月休みにあちこちで医療崩壊が起きている可能性が高い。これまで聞きなれなかった言葉「トリアージ」が最もよく耳にする言葉となり、全国で多くの命が選別される地獄絵が繰り広げられることになるだろう。
菅義偉総理は、あるテレビ番組で、国民への「自分の言葉を」と問われて、真っ先に述べたのが、「ワクチン接種が広まれば見通しが立ってくる」という話だった。しかし、ワクチンが全国民に行き渡るには今秋まででも無理で、かなり先までかかるということは菅総理も熟知しているはずだ。目前の危機に対する国民の不安を収めるために、そんな先の話をしていることが、この人の想像力のなさ、そして危機感のなさを表している。
こんな総理の下では、どう転んでも当分は、安心して旅行や外食はできないのは確実だから、その間、経済はさらに落ち込み、生活苦に陥る人も増える。自殺する人も増えるだろう。ただし、それは、移動や外食の自粛で経済が落ち込むからだという政府の説明に頷いてはいけない。本当の理由は、困っている人を政府が助けないことにある。自助、共助などとまどろっこしいことを言わず、さっさと手を差し伸べればよい。
ところが、驚いたのは、菅氏の経済ブレーンである某内閣官房参与が、テレビで語った言葉だ。貧しい人に手を差し伸べたいのだが、IT化の遅れで所得を把握することができないのが心苦しいと言ったうえで、「これは将来の課題として解決する」という。さらに、困った人への相談窓口があるが、役所の縦割りが問題となっているとしたうえで、「デジタル庁を作って各省庁のサイトを一元化する」と答えた。今日、明日、生きるか死ぬかと苦しんでいる人たちに、将来の課題として解決とか、半年以上先にデジタル庁ができるので「乞うご期待」という寝ぼけた答え。菅総理にこんなアドバイスをしているのかと思うと絶望的な気持ちになる。
菅総理は、国民に対する安心と将来の希望を与える言葉として、ワクチンの次にもう一つ挙げた。コロナを克服した証しとしてのオリンピック・パラリンピックの開催だ。英国発の感染力を増した変異ウイルスの拡大が恐れられる今もこの人の頭は五輪でいっぱいなのだ。
安倍晋三前総理は、昨年2月から3月下旬の間、五輪延期決定に至る交渉に没頭し、コロナ対策を放置して感染拡大第1波を招いた。菅総理もやはり、五輪最優先で、コロナ対策は二の次のようだ。やみくもに五輪開催を強行し、世界に胸を張るのが夢なのだ。五輪を開催すれば、パラリンピック開催中あたりにも感染が爆発し、終了後は第4波で日本は壊滅状態。そんな光景が目に浮かぶ。
菅氏に代わる総理候補が見当たらないというが、だからと言って、このまま、わかり切った大災害へと突き進むのは愚かすぎる。とにかく、菅総理をクビにする。そして、五輪を中止してコロナ対策に専念できる人なら誰でもいいから総理になってもらうべきだ。「緊急事態宣言」は、日本政治の中枢に対してこそ必要だ
※週刊朝日  2021年1月15日号

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五輪はすでにその意義を失った

国会は通常国会が6月に閉じてから、安倍の病気引退プロジェクトを演出しコロナ対策から目を背けた。第2波は真夏だったが、秋に入って一気に感染爆発が起きた。この間1波、2波の経験や知見を生かして秋に備えることをやってこなかった。むしろGOTOトラベルなど国民の移動を推進するかのような政策を行った。そのためもはや完全にコロナ禍を脱却するタイミングを失った。
こんな折に延期された来年のオリパラについて何らの議論もしていないのが国会・JOC・東京都である。それこそ各界の有識者を集めて議論すべき時だ。中止決定が遅れれば遅れるほどその経済的損失は膨らむ。また、最も危惧されるのが教育現場である。再三休講措置が取られると身を入れた学習や部活は困難である。早々に決定することが何より国民の不安を払しょくすることになる。IOCは非政府組織 (NGO)の非営利団体 (NPO)であり、その運営資金は、主に放映権料販売とスポンサーシップ収入による。一般の団体であるから彼らは放映権料やスポンサーに責任を持つだけである。日本が腫れ物に触るような対応はすべきでない。そもそもオリンピックがアマチュアの国際大会であったものがいつまにか、プロスポーツ選手の自己アピールの場と化しており、各種スポーツ団体はほぼ毎年のように世界大会が行われている。あえて多くの競技を一か所でやる必要があるのか疑問である。本来のオリンピック精神に基づくアマチュアスポーツ大会へ回帰することが必要である。