民主主義の危機

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不正選挙を訴えるトランプとオウム麻原死刑囚が重なる部分

公開日:2020/11/07 06:00 更新日:2020/11/07 06:00

「選挙を盗むことは許さない」「正当な票を集計すれば私の楽勝だ」

米大統領選で、民主党のバイデン前副大統領(77)と激戦を繰り広げた共和党のトランプ大統領(74)が5日、ホワイトハウスで記者会見し、「選挙で不正が行われている」との主張を繰り返した。米国が築き上げてきた民主主義制度を、大統領自らが“否定”するような言動に対しては、競り合った民主党支持者だけでなく、身内である共和党議員からも批判の声が出ているが、トランプ大統領はお構いなしだ。怒りの感情に任せて常軌を逸した行動に出ている姿には呆れるばかりだが、「私の票が盗まれている」と選挙の不正を訴えるトランプ大統領の姿と重なるのが、2018年7月に死刑執行となった「オウム真理教」元代表の麻原彰晃(本名 ・松本智津夫)死刑囚だ。
1990年2月の衆院選。「オウム真理教」は約10億円の選挙資金を投じて25人の候補者を立てたものの、全員が落選して供託金も没収された。この時、「トップ当選する」と豪語しながら落選した麻原死刑囚がメディアの前で叫んでいたのが「投票箱をすり替えられた。国家の陰謀だ」「不正選挙だ」という言葉だった。
選挙の大敗を受け、教団は「国家を潰せ」と先鋭化。信者らが熊本・波野村の施設で毒ガス製造や細菌兵器の開発に着手していくわけだが、これも、トランプ大統領の「不正選挙」の訴えに呼応して開票所に押し掛け、感情むき出しで「不正」を訴えるトランプ支持者の姿とそっくりだろう。トランプ大統領と麻原死刑囚の“共通点”はどこにあるのか。

明大講師の関修氏(心理学)がこう言う。
「トランプ大統領の姪で、臨床心理学者メアリーは著書で、トランプ大統領を『ソシオパス(社会病質人格障害者)』と書いています。ソシオパスというのは平気でウソをつく人。いわば詐欺師的な性格です。そして、トランプ大統領の言葉を何ら疑うことなく、そのまま信じ込む人がいる。そういう点ではカルト宗教と似ていると言えるでしょう。トランプ大統領は熱狂的支持者だけに聞こえる『犬笛を吹いている』とも言われましたが、これは支持者を“暗示”にかけているわけで、カルト宗教も同じ。懸念されるのは、オウム事件のように“暗示”にかかった人たちが何をするか分からないことです。実際、トランプ大統領のツイッターの呼び掛けに賛同した支持者が、ミシガン州の知事を拉致しようとしてFBIに逮捕、起訴されました。今後もこうした事件が起きる可能性はあると思います」

トランプ大統領が中国やロシアと並ぶ超軍事大国のトップに就き、今も核兵器の発射ボタンを握っているのだと思うと、つくづくゾッとしてしまう。まさかあと4年も…なんてことはあるのか、ないのか。
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トランプ陣営の原動力「Qアノン」ついに政界進出の不気味

公開日:2020/11/06 13:50 更新日:2020/11/06 13:50
投票締め切りから丸1日が経過しても結果が確定せず、まれにみる激戦になった米大統領選。民主党のバイデン氏圧勝という事前の世論調査に反して、根強い支持を見せつけて善戦するトランプ大統領の原動力になったのが、「Qアノン」の存在だ。
Qアノンとは、2017年ごろにインターネットの匿名掲示板に現れた「Q」と名乗る人物が振りまく陰謀論と、その信奉者を指す。アノンはアノニマス(=匿名)という意味だ。
Qアノンの主張によると、米国は闇の権力者たち「ディープステート」に支配されていて、トランプは彼らと戦うヒーローである。また、民主党の政治エリートたちは小児性愛者であり、サタン崇拝の小児性愛者ともトランプは戦っている。真の救世主だから迫害され、ディープステートの一部であるマスコミからも批判されているというのだ。
荒唐無稽な陰謀論はまるでアメコミの世界だが、これを信じる人々が数多くいる。「Qアノンの特徴は非科学的で、ネット上で自分たちに都合のいい情報だけを取り入れ、過激化していくことです。まともな政治家が相手にしてはいけない人々なのですが、トランプ氏はうまく取り込んでいる。コロナ対策のマスクもしないし、郵便投票は不正だという主張もQアノンにしてみればすんなり腑に落ちる。彼らの存在がSNSによる連帯で可視化され、集団化していることが大統領選に与えた影響は小さくない。しかも、ネット上の存在だけならまだしも、現実の政治の場にも進出してきました」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)

上下両院で当選

大統領選と同時に行われた連邦議会の上下両院選で、ジョージア州ではマージョリー・テイラー・グリーン氏が当選を決めた。Qアノン信奉者の中でも有名な女性だ。フェイスブックに「今こそサタンを崇拝する小児性愛者を追放するチャンス。私たちの大統領はそれができる」などと語る動画を投稿したこともあり、陰謀論だけでなく、人種差別なども支持してきた。再選を果たした共和党のエリック・バーセル上院議員もQアノン信奉者とされる。公用車にQアノンのスローガンである「Where we go one we go all(我々はひとつになる場所に共に向かう)」を略した「WWG1WGA」というステッカーを貼っていたことが物議を醸した。
「FBIはQアノンはテロの脅威だと警告していますが、トランプ氏が敗北しても消える気配はありません。むしろ、ディープステートによる陰謀のせいで負けたと主張し、信奉者を増やす可能性もある。ネオナチ復活やネトウヨ隆盛も根っこは同じです」(五野井郁夫氏)
ネット社会のあだ花と切り捨てられない影響力が不気味だ。