学術会議をつるし上げる輩の疑惑追及が先だ

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著者:金子勝立教大学大学院特任教授
1952年6月、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て現職。慶応義塾大学名誉教授。文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」などにレギュラー出演中。近著「平成経済 衰退の本質」など著書多数。新聞、雑誌、ネットメディアにも多数寄稿している。

金子勝の「天下の逆襲」

任命拒否問題は学術会議をつるし上げる輩の疑惑追及が先だ

公開日:2020/10/14 06:00 更新日:2020/10/14 06:00
日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否をめぐる政府側の対応は、ひどすぎる。最大の問題は1983年に中曽根首相が「政府が行うのは形式的任命にすぎない」とした国会答弁をひっくり返す事態を起こしたにもかかわらず、日本学術会議法の解釈変更はしていないと強弁し続けている点だ。任命拒否の具体的な理由説明も一切ない。「総合的・俯瞰的観点」を繰り返すのは、説明のしようがないからだろう。
安倍政権下の2018年11月に内閣府が内閣法制局に照会し、「首相は学術会議の推薦の通りに任命すべき義務があるとまでは言えない」とする見解を文書でまとめていたとして任命拒否の根拠に持ち出してきたが、これも問題だ。
この文書は国会で審議されたこともなければ、国民に公開されてもいない。手前勝手な内部文書をお墨付きであるかのようにデッチ上げているのと同じだ。安倍政権から菅政権まで一貫する偽装・隠蔽体質が浮き彫りになっている。公文書や統計改竄の首謀者、あるいは責任者が法律をねじ曲げてデタラメを押し通そうとしているところに問題の本質がある。任命拒否の張本人である菅首相は、森友学園疑惑への安倍昭恵夫人の関与はないと国会答弁。その後、公文書改竄が起きた。ご飯論法を駆使して批判をかわそうとする加藤官房長官は、ジャパンライフの事実上の広告塔であったばかりか、厚労相時代には統計不正の責任を負う立場だった。
衆参両院の閉会中審査で「総合的・俯瞰的観点」を連発した内閣府の大塚幸寛官房長は、桜を見る会の推薦者名簿改竄で謝罪に追い込まれた人物。疑惑の面々が学術会議に対する人事介入でも暗躍しているのだ。学術会議のあり方を検討するPT設置で鼻息が荒い下村博文政調会長は、加計学園から裏献金を受けた疑惑がくすぶっているし、英語民間試験をめぐるベネッセとの癒着が疑われている。
スガ自民は行政改革の対象だの、あり方見直しだのと学術会議をつるし上げているが、嘘と改竄だらけの自分たちを振り返ったらどうか。追及されるべきは菅、加藤、大塚、下村たちなのだ。こんな輩が浅知恵を働かし、学術会議を牛耳ろうなんて言語道断。権力が学問の自由を平然と侵害するこの国は先進国でも法治国家でもない。メディア、官僚に続いて忖度学者があふれかえるようになれば、いよいよ日本はオシマイだ。

My Comment

学術会議は本来、科学技術(厳密に自然科学)研究者が時代の先端技術の真理探究を様々な分野(理学・工学・医学・地学等々)の研究成果を政府の諮問に対して研究成果や未来への展望を答申するための機関であったはず。科学は研究者の発見や理論を他の研究者が追認実験により再現あるいは証明がなされる分野である。それがいつの間にか人文・社会科の学者がこの分野の研究を科学と称して学術会議の一分野として設置したところに誤りがある。人文・社会学は人間社会におこる哲学・倫理学・心理学・社会学などを取り扱い、それは一つの真理を目指すものではなくいくつもの解が存在し一つに集約できるような真理は存在しない。
従って、政府の政策が憲法学や政治学的に偏っていれば、反対意見を述べるのは当然のことである。時の政府が国民の100%完全な支持によって政権を得たのではなく、たまさか選挙によって多数を得たに過ぎない。その内閣が自分たちの政権に楯突くものは許容しない考えは、根本的に民主主義を誤解している。安倍政権は科学的真理さえ無視して、自分たちに都合の良い方向へ向かわせる独裁政治であった。
例えば、地球温暖化の要因がCO2であると結論付けて、すべての企業へCO2 排出に制限をかけ、原発を54基も作ったり、何の対策にもならないレジ袋の有料化や、石炭火力発電所を閉鎖するような愚かな政策を繰り出す環境省等々、すべて自然科学の学会に諮問しただろうか。一部の利害関係者が儲ける地球環境保護や気候変動問題を、自然科学的見地から学会での議論の結果から壮大な地球環境保護が始まらなければ、決して成果を上げない。もっと自然科学者の研究を、利害関係なく自由に進め、その成果を尊重することがない限り、行き詰った社会を立て直すことなどできない。