教育の危機

日刊ゲンダイDIGITAL 政治・社会 政治ニュース 記事より
著者:孫崎享 外交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。

日本外交と政治の正体

教育の公的支出を減らし続ける日本は衰退の一途をたどる

公開日:2020/09/18 06:00 更新日:2020/09/18 06:00
1968年、日本が世界第2位の経済大国になった。当時、世界各国が驚き、なぜ、「日本の奇跡」が起こったのかと、さまざまな調査団を日本に派遣した。その後、調査結果として、おおむね次のように指摘された。

  • ①非軍事を貫き、資源を専ら経済に回した
  • ②労働者レベルでの高い教育水準
  • ③「日本株式会社」と呼ばれるように、政府が優れた方針を打ち出し、それを国家が一体になって推進した

・・・などだ。
ところが、今や、それらは全て消滅してしまった。エネルギー政策でも、原子力発電が「安い」「安全」というのが単なる幻想と分かっても固執している。ドイツなどが自然エネルギー重視に転換したのとは真逆の動きである。
OECD(経済協力開発機構)は8日、加盟各国のGDP(国内総生産、2017年)に占める教育機関向けの公的支出の割合(小学校から大学に相当)を公表した。それによると、日本の比率は2・9%で、38カ国のうち、アイルランドに次いで下から2番目。OECD平均は4・1%で、最高はノルウェーの6・4%。米国は4・2%、英国が4・1%、ドイツと韓国は3・6%だった。こうした数字が公表されるのは今年が初めてではない。昨年度調査では、日本が2・9%で、35カ国中、最下位と発表されているのだが、日本では大きく報じられず、多くの国民はほとんど無関心のようだった。世界の経済環境は今、技術改革の真っただ中にある。特に通信分野で情報伝達は量・質両面で飛躍的に進化し、これが生活の全ての分野に影響を与えようとしている。
医療、通信、輸送、金融、教育などさまざまな分野で現在のシステムが遺物化する事態が直前に来ているのだ。人類の歴史の中で、教育の持つ役割が最も大きい時期が迫っているのに、日本では教育機関向けの公的支出の割合が下から2番目という事態が起きているのである。民間企業でも収益重視の観点から研究開発に投じる資金は減少。かつて技術大国だった日本が世界の先端をいく分野はどんどん減少している。とくに成長産業であるハイテク部門ではほとんど存在しなくなった。教育を重視しない国が世界各国との熾烈な競争に勝てるはずがない。日本の衰退はすでに始まっているにもかかわらず、各界からの警鐘はほとんど聞こえてこない。

My Comment

このブログでも再三日本の高等教育の衰退についての危惧を指摘してきたが、特に科学教育の衰退は目に余る。まだ、日本の経済成長期に醸成された日本の科学技術が何とか維持されているが、あと数年もすれば日本の製造業は世界に誇れるものは何もなくなってしまうところまで来ている。
その原因は、科学技術への軽視である。理工系大学や大学院、高等専門学校が独立行政法人となって以来20年近くなるが、この間高等教育機関への交付金は毎年1%すなわち移行期から20%もの減額である。
人件費以外の研究費にしわ寄せがくることは間違いない。さらに法人によっては人件費さえ削減して、非常勤職員で業務の一部を分担したりするところまで追い込まれている。科学教育の最も重要な教育と研究がほとんどできない状態である。科研費の申請採択以外は、細々と従来設備で研究を行っている状況にある。
特に基礎研究といわれるものは、研究者が疑問やアイデアを実現するために長年の研究結果から、新しい新技術が生まれるのである。そのような基礎研究を重視する姿勢は、文科省にも政治家にも皆無である。むしろ数年後に結果を出せというようなせっぱ詰まったときにしか研究費を提供しない。そのような将来につながるような息の長い研究をしようとする研究者も出てこない。せめて、運営交付金の削減は終結して増額するべき時である。最も理解できているはずの文部科学省が私立大学ばかりを優遇し、国公立の現状を見つめていないからこういう問題が起こる。日本が科学立国として資源のない国を一流国にしてきたのはこの教育にかけた成果であることを今一度振り返ってほしいものだ。

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