大学の危機

大学の研究 国際的地位低下を嘆くなら

北海道新聞 06/24 09:50

<自由な学問と知的活力のある大学へ>とのタイトルで明大が6月、学長・学部長声明を出しました。その中で「一部国会議員や言論人が、学問の自由と言論表現の自由に対して、公然と介入し否定する発言を行っている(略)。事態は看過できるものではありません」と指摘しています。
なぜ、こんな声明を出したのでしょうか。2018年に入り、一部の国会議員らが国会やツイッターなどで、国(学術振興会)の競争的研究資金である科研費が「反日的な研究に助成されている」との趣旨の批判を繰り返していました。これに対し5月、法大の田中優子総長が<自由で闊達(かったつ)な言論・表現空間を創造します>とのメッセージを出し、これに呼応したのが冒頭の明大の声明です。

大学や研究を巡るニュースがこの数カ月、話題となっています。<北大、防衛省の助成を辞退 学術会議声明受け>(どうしん電子版)もSNSで多くシェアされました。これらのニュースの根っこは詰まるところ、お金をだしにした研究への介入という問題に収斂(しゅうれん)すると感じます。十数年前、札幌で教育や大学を担当しました。04年の国立大の法人化、それに伴う運営交付金の削減、科研費をはじめとした競争的資金へのシフトが進み始めたころでした。07年に書いた記事を見返すと、当時北大の副学長が「学問は幅広いバックボーンがあって成立する」と述べ、ある研究者は「いわゆる目を引く研究にも手を出さざるをえない。それが社会貢献につながる場合もあり全否定はしないが、研究と教育の質は必ず落ちる」と指摘しています。

政府が12日に閣議決定した18年の科学技術白書は「他国と比べた論文の数や質で、日本の国際的な地位が低下している」と指摘しています<若手育成や研究資金強化を 地位低下と科学技術白書>(どうしん電子版)。07年当時の懸念が現実化しているようです。
国立大の授業料は上がり続け、教育費も高騰するばかり。白書で研究・論文で日本の国際的地位の低下を嘆くなら、この間に進めた教育・大学・研究政策をまず見直す必要があるのではないでしょうか。なかんずく、国会議員が研究や研究者を名指しし「反日」などとレッテルを貼っている場合ではないでしょう。
(メディア委員=東京駐在 田中徹)

My comment

国立大学・高専が多くの教員の反対にもかかわらず、独立行政法人に移行してからは運営交付金が毎年削減され続けてきた。運営交付金の削減はまず、研究費の削減となり、更に非常勤講師ばかりの教育に陥る。
もはや安定した環境で研究や教育を考えることさえできない状況に陥っている。そこへもってきて、潤沢な予算をニンジンに防衛省が研究費を出して国防に関する先端技術を研究させたり、反日(極右=日本会議に反対する勢力)と決めつける研究を阻止しようと、自民党・公明党議員がツイッターで、これをいかにも正論かのように掲げ、大学や教育にまで干渉し始めている。
法大田中学長に続く、明大のこの対応はまことに時宜を得た声明である。
日大のような金儲け、体育会系の重視などもってのほかで、これらへの運営交付金を削り、更に独立行政法人も連携して声明を発する時である。少子高齢化によって、誰でも入れる大学は淘汰させるべきであり、これらの2・3流大学へ運営交付金を出すならば、独立行政法人に削減した運営交付金をまわすべきである。科学立国の日本が将来にわたって、世界に伍していける国となるために何よりも高度な知識をもった科学者・研究者・技術者こそが必要である。筆者には、今改革しなくてはもう立ち直れない時期にあるという危機感を持つのだが、安倍政権は、加計学園をはじめとするIR法案・働き方改革等々国を悪い方向へ導いていることに国民は気付かなければならない。