行き詰まった強者優遇

道新11/21朝刊 「各自 核論」

立命館大教授 高橋 伸彰氏の論文が掲載された。

現状の経済学者は大部分が強者優遇、大企業優先の論点からの論文が多い中、高橋氏の論点は、日本の現状をよく分析された中立の立場から安倍ノミクス解散を総括しているので一読願いたい。
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 原発反対の急先鋒として括躍する小泉純1郎元首相は、かつて持論である郵政民営化法案が参議院で否決された際に、歪院の解散・総選挙で民意を問うたことがある。乱暴な解散という印象はあったが、筋は通っていた。これに対し、今回の安倍晋三首相による解散劇には大義どころか、意義のかけらも見られない。
 安倍首相は、この9月に召集された臨時国会の所信表明で自らの改革は「道半ば」だと述べたうえで、「引き続き、デフレ脱却を目指し、『経済最優先』で政権運営に当たっていく」と明言したばかりである。
また、消費税率の再引き上げをめぐっても、景気の動向いかんで先送りしたり、凍結したりできることは、改正消費税法の本則とは別に、景気弾力条項に明記されている。
あえて総選挙で民意を問わなくても安倍首相が判断し、安定多数の与党の協力を得て国会で法律を通せば済む話である。
 7-9月期の国内総生産(GDP)の速報値などを参考にして、最終的に増税(解散ではない!)の是非を判断すると言い続けてきたのは首相自身である。
 もちろん、解散・総選挙に際してはさまざまな「大義」が出てくるかもしれない。だが、2年近くに及ぶ政権運営において安倍首相が繰り返し主張してきたのは「経済優先」である.その経済がアベノミクスのシナリオ通りに順調な成果を発揮しているなら国会で責められる理由も、また民意を問う必要もない。
まして改革が「道半ば」なら、解散・総選挙で時間を無駄にする余裕などないはずだ。
 それにもかかわらず、解散・総選挙を安倍百相が決断したのは、行き詰まった強者優遇アべノミクスが「道半ば」どころか、行き詰まっているからに他ならない。

中略

 改めて指摘するまでもなく、GDPの約6割を占める個人消費の大部分は、中間層も含めた庶民の日常的な消費によって成り立っている。
上位数%の富裕層が株でもうかった泡銭を高額品の購入に当てたところで、GDPベースで300兆円近い個人消費にとってはすぐに消えてしまう泡沫にすぎない。
 円安と消費増税による物価高に賃金が追いつかず、実質所得の減少が続けば個人消費の「水位」が下がるのは当然であり、下がった「水位」を富裕層の「泡」で埋めようとしてもしょせん、無理な話である。
 そう考えると、大胆な金融緩和で株高と円安を進め、富裕層の消費と大企業の収益を高めて、その成果を庶民の懐にトリクルダウン(滴り落ちる)し、日本経済の好循環を実現するというアべノミクスのシナリオが最初から間違っていたことがわかる。
 間違った道を歩み続けても日本経済は再生しない。いわんや庶民の生活は苦しくなるばかりである。
求められているのは、富裕層や大企業など強者優先のトリクルダウン政策から、日本経済を根底で支えている庶民に「安心と安定と安全」を保障するボトムアップ(底上げ)政策に転換することである。
そのために消費増税の再引き上げは白紙に戻し、代わりに所得税の最高税率引き上げや資産税の強化、および法人減税の中止と大企業向け優遇税制の廃止によって経済的強者にもぎりぎりの負担を求めることで、財政再建と社会保障改革を両立すべきである。
 総選挙に臨む各党は目先の景気をめぐる水掛け論ではなく、トリクルダウン(強者優遇)かボトムアップ(弱者底上げ)かと政策の基本姿勢を争点にして民意を問うてほしい。
 
 53年、三笠市生まれ。
早稲田.大政治経済学部卒。
通産省(当時)企画室主任研究官へ
米ブルッキングス研究所客員研究員などをへて現職。
専攻は日本経済論。
著書に「優しい経済学」 「グローバル化と日本の課題」 「アべノミクス
は何をもたらすか」 (共著)など。